VALUE LIFE

生命を大切にする観点から、私の記憶、体験、知識などを綴ります。

ネムノキの花

そう・・・

あれは もう暑くなり始めた頃だ。

犬を連れて行った公園で

木陰を作ってくれている樹木をふと見上げた。

 

晴天の青と 芝の緑を背景にして

大きく枝を広げたその木があった。

 

その枝についていた花は濃いピンク色だったが

一つ一つの花の印象は微かで、ふんわりとしたものだった。

 

あまりにも樹木と花と背景のコントラストが美しくて

わたしを引っ張る犬を留めつつ、しばし見惚れた。

 

 

数日後。

わたしの身近なところに

同じ樹木が自生しているのに気づいた。

 

特徴的な あの花が咲いていた。

 

初めてその花咲く樹木の名前を調べた。

ネムノキだとわかった。

 

植物の名前を知るのは好きだが

近年はあまり新しい名前を知ろうとしていなかった。

 

わたしは 

身近に見つけたネムノキを見て嬉しかった。

 

 

後日。

足元に落ちていた ネムノキの花を拾った。

 

 

はっきりと見えていなかったその花は

極細のペンで引いた線ほどの繊細な花弁が

扇状に一つになった、珍しい形をしていた。

花のがくから真っ白な線が始まり、

ときめく鮮やかな濃いピンク色へと変わっている。

 

いいものを見つけたように嬉しくなって

手のひらに乗せて持って帰った。

 

羽毛のようにふうわりと揺れる花弁は

まだ華やかな色合いを保っていた。

 

それだけで幸せを感じた。

 

絵に描いてみたいと思ったが

一日、二日が過ぎて、花は薄茶色に変色していった。

 

今年の花は終わりかけて、

この花に出会うのはまた来年になってしまう。

 

でもなぜか、わたしの中では

ネムノキの花に出会ったことが大きく残って、

生きる希望の一つになった。

 

普段の変わらない流れの中で

何がこうしてみずみずしい気持ちを発露させるのか

わからないものだなあと思う。

 

少なくとも、

季節に沿って花を咲かせる植物は

こうした影響力を持っていて、

私たちは元気や癒しを受け取っているのだろう。

 

優しい気持ちや、安らいだ表情や笑顔が

その時間には あった。

 

ラナンキュラスオールドローズのような

整って華かでふんわりした姿には、 

目を奪われていつも惹かれてしまう。

 

それとは全く違うが、

ネムノキに親しみと感動を持ち

予想外に 出会いだったと思い至っている今

いっそう そんな思いになった。

 

今はもう花も終わってしまった。

花が終わったネムノキは

周りの木々の中で 存在感が薄くなったが

わたしは、これから折に触れ

その存在を確認したくなるだろう。